【テーマ:糖尿病】 救急において非情な選択を迫られた糖尿病患者さんの症例 ~後編~|桜ヶ丘クリニック|兵庫県伊丹市の総合内科・腎/高血圧内科

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【テーマ:糖尿病】 救急において非情な選択を迫られた糖尿病患者さんの症例 ~後編~|桜ヶ丘クリニック|兵庫県伊丹市の総合内科・腎/高血圧内科

【テーマ:糖尿病】 救急において非情な選択を迫られた糖尿病患者さんの症例 ~後編~

中編では糖尿病性足壊疽により全身状態が悪化しているところまでお話ししました。ここからはご本人、ご家族への病状説明になります。

(6) ご本人、ご家族への病状説明  

ここからは再度私(Dr)と本人,家族(母)との会話です。

 

Dr「糖尿病性足壊疽は膝上にまで及んでおり左下肢を切断しなければ救命は難しい状態です。」

 「なんとか足を切らずに助けることはできませんか?」

Dr「ここからは厳しいお話になりますが心して聞いてください。糖尿病足壊疽による感染は命に関わるレベルであり抗生物質では到底治療できないものです。感染による急性腎障害も進んでおり透析も間近に迫っています。ここで足の温存を選んだ場合、命を諦めるしかないです。透析をしないことを選んだ場合も命を助けることはできないと思われます。助かることを選ぶのならば足と腎臓は諦める他ありません。足/腎臓を選び命を落とすか、それとも足や腎臓を捨ててでも生きることを選択するか。ご決断下さい。残酷なようですが、ここで優しい嘘をつくことは判断を曇らせ結果的に患者さんを不幸に導くので医師としてふさわしくないと思っております。辛いですがここでご決断を。たとえどちらを選ばれたとしても私は最善を尽くします。」

母 「…。」 ご本人「…。」

Dr「時間が必要ですよね…もう一度ご家族でよくご相談してください。」

 

このように救急では時に残酷な決断を下さないといけない瞬間があります。ここで我々が判断を誤れば患者さんは命を落とします。医師にとって患者さんの気持ちに寄り添うことはとても大事ですが、特には今回のように救命のために患者さんに嫌われることも厭わない勇気もまた重要です。

 

(7) その後の経過

病状説明後にご家族で協議された結果、最終的に下肢切断の方針を選ばれました。非常に辛い決断であったと思います。

今後の見通しとして下肢切断、抗菌薬治療、緊急透析、集中治療室管理、糖尿病厳格コントロールが必要と考えられました。必要な治療は非常に多岐に渡るため、総合的な内科的管理が必要と判断し総合内科の私が主治医を引き受けました。

まず整形外科の先生に紹介し緊急手術で左下肢を切断、その後交代で私が引き継ぎ、集中治療室において糖尿病管理,抗菌薬治療を行いました。また術後やはり予想通り循環不全により尿が出なかったので緊急透析を行いました。1週間ほどで病状は落ち着き、なんとか一命を取り留めることができました。

そして、1つだけ不幸中の幸いとして術後に腎臓は非常に回復したので腎臓は助けきることができました。足は残念ながら切断となりましたが、最終的は命が助かっただけでなく透析も回避できたのは本当に良い結果でした。

 

(8) 本症例のまとめ

私は外来でいつも患者さんによく言うのですが、『医学において甘い言葉は大体嘘、厳しい言葉が真実』です。患者さん方が辛い現実から逃避することなく治療に前向きになって頂くことで我々も最大の力を発揮できます。

逆に今回の例の患者さんのように糖尿病という大病が存在する現実から目を背けると後で非常に大きなツケが回ることになります。「糖尿病なんてどうせ何も起こらない」とか「薬なんて飲まない方が良い」とか「医者の金儲けで薬を飲ませているのだろう」等の言葉をよく耳にしますが、これらは全て現実逃避であり嘘です。

本症例のような大変なことになる前に、糖尿病を指摘された患者さんは早めに医療機関に受診してください

 

 

以上で糖尿病のテーマを終了とします。非常に長かったと思いますがご覧頂きありがとうございました。