総合内科的知識が問われた経験症例 Part3 『がんと糖尿病』 後編|桜ヶ丘クリニック|兵庫県伊丹市の総合内科・腎/高血圧内科

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総合内科的知識が問われた経験症例 Part3 『がんと糖尿病』 後編|桜ヶ丘クリニック|兵庫県伊丹市の総合内科・腎/高血圧内科

総合内科的知識が問われた経験症例 Part3 『がんと糖尿病』 後編

前編、中編の続きからお話ししていきます。

 

(6) 総合内科医としての診療方針:食事制限,インスリン中止を指示

点滴の際に血液検査を行ったところなんと血糖値50mg/dlでした。これは命を落としかねないレベルの低血糖です。予想した通り食事の炭水化物の摂取が少ないにも関わらずインスリンを打っているため、日常的に低血糖になっていると思われました。低血糖は命に関わる上に動悸,冷汗,立ちくらみ等の症状を引き起こすため非常にしんどい状態です。

私はこの患者さんの診療においては第三者の立場ではありましたが、低血糖の状態は非常に危険であり早急に介入が必要と考えてまずはインスリン中止の方針としました。そして食べられるものは好きなだけ食べてください、と伝えました。そして現在の状態は大学病院の先生に報告して今後の方針を再検討してください、と説明しました。5日後に患者さんが定期外来でA大学病院糖尿病内科に受診したところ、やはり胃癌の病状としては深刻であり厳密な管理は不要、低血糖もありインスリン療法は今後中止,ある程度好きなものを食べて大丈夫です、という方針になりました。

しかしこれには医師としては正直少し思うところがあります。私は食事制限やインスリン療法のような患者さんの日々の幸せを削るような治療にはしっかりした理由が必要だと考えています。そしてそのような辛い治療を患者さんに指示する際には、一人一人の医師がある程度自分の治療方針にプライドをもって行ってほしいと願っています。通りすがりの医師の指摘ですぐに変わるような治療をしていたとなると、本当に患者さんのことを一生懸命に考えているのだろうか?と訝しく思ってしまいます。

 

(7) 本症例の問題点:やはり『責任の分散』

 (ⅰ) 消化器内科と糖尿病内科の連携不足

消化器内科医は元々根治を目指していたものの、転移の発覚を機に終末期医療へとシフトしたと考えられます。これを糖尿病内科にしっかり伝えていれば今回のような事態は防げたと思います。

 (ⅱ) 糖尿病内科医の意識不足

これはブログで何度もお話ししていますが、 やはり担当医が増えれば増えるほど『責任の分散』が発生します。糖尿病内科医がもし主治医としての自覚を持って診療に当たっていたのならば治療方針を柔軟に変更できていたのではないかと考えます。

 

総合内科の症例を説明する際にはどうしても批判的な内容になりがちですがその点はご容赦下さい。なぜなら総合内科という専門家が生まれたきっかけは、専門医診療において生じた溝を埋めるためだったからです。そのため総合内科は専門医に対するアンチテーゼともいえる存在です。

しかし専門医の存在も今も間違いなくとても重要です。手術やカテーテル,カメラ等の手技や神経内科/免疫内科/血液内科系疾患等の治療にはやはり高度に専門的な知識や技術が必要だからです。

 

 

 

その後のお話ですが患者さんのご家族さんが後日クリニックに訪問されました。本当に残念なことに私が診察した日の2か月後に早くもお亡くなりになられたとのご報告でした。しかし娘さんより「家族としては食べたいものを食べさせてあげられるようになり、父もやりたくなかったインスリンもせずに済むようになったので本当に喜んでいました。心から感謝しています。」とのお言葉を頂きました。患者さんのメインの診療においては私は完全に部外者の立場でしたが、あの時に点滴のみとしなくて本当によかったと思いました。

 

以上で本症例のお話は終了とします。長いお話でしたがここまでご覧頂きありがとうございました。