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総合内科的知識が問われた経験症例 Part1 まぶたが下がる

2022.08.19

ここからは具体的に私が経験した症例に基づき、総合内科力の必要性をお話ししていきたいと思います。

 

Part1 【両目の瞼が下がる症状で受診した60歳代女性の例】

元々この患者さんは高血圧で私の外来に通院されていました。いつもの薬を処方する時に、私はふと患者さんの瞼がなんとなく下がっているのでは?と感じました。

「瞼が下がっているように感じるのですが…」とお話ししたところ、次のように返答されました。

「一か月前から瞼が下がっていて眼科に行ったところ念のため脳外科に行ってと言われた。総合病院の脳外科で頭のMRIを撮って問題なかった。眼科に戻って眼瞼下垂の診断でボトックス注射を打っている。だから大丈夫です」

 

これを聞いて皆さんはどう思われるのでしょうか?

専門医が診てくれているから大丈夫のはずだ、となりがちですが実はそれでは重大な疾患を見落とす可能性があります。私はこの時に一つの怖い病気を想定して「うちでも検査させてもらえますか?」と聞きましたが、「専門の色々検査してもらっているから大丈夫です」とやんわりと断られました。しかし心配だから調べさせてほしい、と食い下がったところやや渋々ながらOKを頂きました。

そこで血液検査で『抗アセチルコリン受容体抗体』という特殊な項目を検査したところ、陽性となりました。結局今回の症例の答えは重症筋無力症という病気でした。実はこれは10万人に1人の難病です。ちなみにボトックスではさすがになんの解決にもなりません(苦笑)。最終的に別の総合病院の神経内科に紹介して事無きを得ました。

 

実は眼科、脳外科の診察のお話を詳しく聞いたときに血液検査のお話はありませんでした。そのため私としては2つの専門医でこの重症筋無力症を全く想定していないのではないか?という懸念がうまれました。ここでもし私が『眼科、脳外科の医師が診ているから大丈夫だろう』という甘い考えを以て診療していれば、危うく3人の医師で重大な疾患を見落とすところでした。

 

専門医の存在は確かに重要です。しかし今回の症例からも分かるように我々かかりつけ医は専門医を決して盲目的に信用せず、主治医としてもう一度しっかり患者さんを診療しようとする気持ちを持つことがもっと大切です。

関係ない症状かもしれない、と思ったとしてもやはり一度は必ずかかりつけ医に相談するようにしましょう。そしてこのような事態も想定してなるべく総合内科的知識の豊富なかかりつけ医を選ぶことをお勧めしたいと思います。

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