前編では循環器内科、整形外科、麻酔科の3人の専門家で診療している、主治医は整形外科だが実質の診療の主導権は循環器内科医が担っている状態になっている件に関してお話ししました。続きをお話ししていきます。
(3) 私が感じた1つの疑問点:徐脈について(疫学から考察)
脈拍数40-50回/分程度の徐脈は比較的若年である50‐60歳代でもよく見られます。しかしペースメーカーが必要なほどの徐脈は60歳代ではかなりまれです。やはり70歳代後半から80歳代に多いため本症例にはかなりの違和感を覚えました。この違和感が本当の答えにつながる糸口になります。
(4) さらなる情報収集→徐脈の本当の原因は?
上述の違和感をもとに本症例に関して情報収集を行いました。
ここで大事なのは現在の内服薬です。この方はメマリー/ドネペジルという薬を内服しておりました。これはどちらもアルツハイマー型認知症に使用する薬です。この2つの薬には共通する副作用があります。それが徐脈です。比較的若年発症の徐脈であることからも、心疾患による徐脈ではなく、『薬剤性徐脈』の可能性の方が高いではないかと考えられました。
(5) その後の対応と経過
夜間は少し怖かったのですが徐脈のまま経過観察としました。そして翌日からのメマリー/ドネペジルの内服を中止を主治医にカルテ上で提案しました。その後午前8時までの私の勤務中は幸い何も起こらず経過したため、主治医に引き継いでその日は終了になりました。
その当直病院は週に1回の勤務であり、翌週に再度勤務した際に病棟看護師さんにその後の経過をお尋ねしました。すると結局、薬剤中止後から心拍数は60回/分代まで改善したためペースメーカー埋め込み術は中止となり、翌日に手術を行って無事成功したとの報告を頂きました。これを聞いて私としては非常に安心しました。しかし主治医および他科担当医は十分に反省する必要があります。なぜなら本症例は一言でまとめると、
『薬剤の副作用による徐脈であるにも関わらずペースメーカー埋め込み術を行う寸前だった』
わけであり、危うく医師の判断ミスで多大なる不利益を患者さんに与える可能性があったからです。
ここまでいかがだったでしょうか?3人の医師で診て3人で間違える事態をなんとかぎりぎり回避できたのは本当に良かったと思います。なおこの症例は実はさらなる壮大なオチがありますので最後にこれを後編でお話いたします。