前項では慢性腎臓病による透析患者さんが持続的に増えていること、そしてその原因は多くは高血圧/糖尿病である、という事実を統計に基づいてお話ししました。その続きからお話しします。
(4) 血液透析とはどのような治療なのか
透析には数種類がありますが、ほとんどの方が血液透析なのでここでは血液透析についてお話しします。
血液透析をシンプルに表現すると、
『老廃物の溜まった血液を大量に抜く→浄化+余分な水分を抜く→血液を返す』
という治療です。つまり腎臓の働きの代わりをする装置ですね。専門用語では腎代替療法と呼びます。
では大量の血液とはどのくらいなのか?という疑問が湧くと思いますが、答えは透析1回につき約50Lです。恐ろしい血液量ですよね。。しかし実はそれだけ大変な治療をしても、透析は腎臓の約10%程度分しか働くことができません。逆に言うと、腎臓は毎日とんでもない仕事量をこなしているというわけです。
(5) 血液透析の問題点1:患者さんの生活や体への負担
① 拘束時間の長さ
透析は週3回4時間行います。これだけ頻繁にしてようやく腎臓の働きの約10%分程度です。。
じゃあこれより頻度を減らしたり時間を短くしたらどうなるのか?となると思いますが、結論としては寿命がより短くなる,もしくは早期に命を落とします。なので週3回4時間は最低限必要です。
特に働き世代の方の場合は社会生活に多大なる支障をきたします。
② 身体的な負担
先述の通り血液透析は大量の血液を抜いてきれいにして返す治療です。大量に血液を抜くためには細い針では不可能です。そのためには血液検査とは比べ物にならないくらい非常に太い針を2か所(血液を抜く血管および返す血管)に週3回必ず刺さないといけないことになります。一応針を刺す前に表面麻酔のテープを貼るのでまだマシにはなりますが、それでも注射が苦手な方にとっては本当につらい治療となります。
また透析は余分な水分を除去する治療ですが、その最中に血圧低下をきたすことも頻繁にみられます。血圧低下は体のだるさが出ることが多く辛いと感じることが多くなります。
(6) 血液透析の問題点2:医療費の増大
透析は高度医療であり『年間500万』という莫大な費用がかかります。当然ながら患者さんの自己負担では非常に厳しいものですので、ほとんどの透析患者さんは身体障害者1級を取得しすべて公費負担とすることで血液透析を無料で受けております。
しかしこれは医療費の増大の大きな一因となっています。現在透析医療は年間1.6兆円もの巨額の国家予算を投入されております。そしてこれはあくまで『透析療法のみにかかる医療費』です。実際は透析患者さんはお一人の体で複数の疾患を抱えている(高血圧,糖尿病,下肢切断,心不全,感染症,脳梗塞,消化管出血etc)ことが多く、その度の薬剤処方や入院費用,手術等を加えると年間2兆円以上もの巨額の医療費が負担されていることになります。そしてそれだけに留まりません。前項でお話しした通り毎年1万人ずつ透析患者さんは増えています。つまりこのままではこれからもこの額は増えていく一方ということになります。
(5)(6)の観点で慢性腎不全が現在社会問題となっているわけです。
【社会経済的な負担の増大+患者さんのQOL(生活の質)の低下】を鑑みると、新規透析患者数を減らすことは我々かかりつけ医の急務ということになります。ここまで大丈夫でしょうか?長くなりましたので、続きは次項に移ろうと思います。