しばらく腎臓内科の話題でお話ししておりましたが再度総合内科に戻ります。今回は私が雇われ院長時代に経験した症例について紹介します。
Part3 【がんと糖尿病を合併した70歳代男性の症例】
この患者さんは元々進行胃癌のためA大学病院の消化器内科にて手術を受けた方です。手術前にコントロール不良の糖尿病が指摘されたため、同院糖尿病内科に紹介となりインスリン治療を開始されておりました。術後抗癌薬を追加で施行したものの治療の甲斐なく再発が指摘されている状態でした。
その後も抗癌薬大学病院には通院しているものの、体調不良が続いておりそちらに受診するのは大変であるため点滴等の治療を希望され当院に初診で受診されました。ここで『大学病院で専門医が診ているからこちらは点滴のみで良いのでは?』と思いがちですがこれではだめです。大学病院医師の治療方針が適切である場合も多いですが、少なからずそうではない例もあるからです。
癌/糖尿病双方のしっかりした知識が必要であり、非常に総合内科としての実力が問われる症例です。ではここから本症例の考察を開始します。
(1) 現在の治療方針の確認 (情報収集)
他院治療中の患者さんを診療する際にまず大切なことは『情報収集』です。ご本人,ご家族に問診して病状に関して詳細に聴取する必要があります。なお『点滴だけする医者』でもよいのかもしれませんが、それでは自分が地域のかかりつけ医を名乗る資格がないと思ってしまいます。このようなセンシティブな症例においては患者さん方に不快に思わせないように配慮しながら実直に診療するように心がけております。。
■ 胃癌について
主治医はA大学病院消化器外科、胃癌の進行度は既にStage4。現在全身状態があまり良くないため化学療法中止しており今後再開のめどが立っていない。糖尿病もあるがこちらは糖尿病内科で併診となっている。
■ 2型糖尿病
術前にコントロール不良のため同院糖尿病内科紹介、手術に際して厳密に管理が必要と判断されインスリン治療にて管理。現在も糖尿病内科で通院診察を受けている。
残念ながら胃癌に関して非常に深刻な状態であり、余命としては1年もつかどうか…という状態でした。これはそれぞれの疾患を病状のみで考える診察です。次に大切なのは『患者さんの全身状態』です。
(2) 患者さんの現在の状態
次に患者さんの状態把握のため以下の項目を聞きました。
① 食事:元気な時に比べたら半分も食べられていない
② 運動:かなり弱っており自力歩行が難しくなっている
③ 睡眠:比較的とれている
④ 癌性疼痛:こちらもある程度問題なし
ここまでが本症例の現状把握です。ここまでの内容で何か本症例の問題点に気付かれたでしょうか?その後の診療については次項に移りたいと思います。