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総合内科的知識が問われた経験症例 Part3 『がんと糖尿病』 中編

2022.09.01

前項の続きからお話ししていきます。胃癌、コントロール不良の2型糖尿病に対してA大学病院消化器内科、糖尿病内科にて診療されている70歳代男性の症例を紹介しておりました。胃癌の病状としては手術,抗癌薬をもって治療しても改善乏しくStage4、治療は現在中断。糖尿病はインスリン治療を行っている状態でした。また食事摂取はどんどん少なくなってきており全身状態も不良となっております。ここからは続きをお話ししていきますね。

 

(3)  総合内科医としての疑問点:インスリン療法は本当に必要?

まずは栄養,水分補給が出来ていないとのことであり、まずは患者さん方の希望もあり点滴をしました。ただ、これまでの情報の中で一つ気がかりな点があったため血液検査を同時に行いました。

何が気になったかというと、答えは血糖値です。

患者さんの病状をもう一度振り返ります。胃癌の根治治療を目的として手術をする際には厳密な血糖管理が必要と判断され、専門の糖尿病内科に紹介となりインスリンが開始されています。しかし私の外来に初診で受診した時には、非常に病状が進行し終末期医療に近づいておりました。食事摂取も半分以下になっており、当然炭水化物摂取も同時に減っているはずです。この状態で果たして本当にインスリンによる血糖管理が必要なのでしょうか?ここが大きな疑問点でした。

 

(4) 総合内科に重要なこと:予後から治療方針を考える

高齢者医療において複数の疾患を同時に抱える方は多くなっております。この場合に大事なことは、『各疾患の予後をしっかり見据える』ことになります。これをしっかりしないと各科の医師が今ある病気すべてにひたすら闇雲に戦うだけになります。そしてこの現象は現在の専門医医療において非常に多く見られるものです。それを防ぐためには『一人の主治医がペースメーカーとなり確固たる治療方針を立てる』必要があります。

今回のStage4の胃癌はもはや半年~1年程度の予後しか見込めないものです。逆に糖尿病は放置しても5‐10年は問題のない疾患です。ではこの患者さんにおいてどちらがより重要でしょうか?もちろん胃癌ですよね。逆に言うとこの段階において糖尿病なんて正直本当にどうでもいいです。ここで糖尿病内科の方針をさらに深堀りします。

 

(5)A大学病院糖尿病内科の方針:厳密な食事制限+インスリン療法

糖尿病内科医の方針を患者さんに伺ったところ私は耳を疑いました。胃癌末期の患者さんにまさかの食事制限をかけていたのです。この時正直私は心の中で静かに怒っていました。あと半年~1年しか生きることができない患者さんになんで好きなものを食べさせてあげないんだ、と。その上さらにインスリンという非常に生活の質を損ねる治療を行っているなんて本当にかわいそうだと思いました。

そしてこの患者さんとご家族さんは非常にまじめで実直な方でしたので、Drの指示通りしっかりと甘いものや果物,麺類,パン等の食事を避ける生活をしておりました。好きな食べ物はチョコだということでしたが胃癌の手術が決まってからそれを一口も食べない生活をしていたようでした。

 

 

ここまで本症例の現状把握についてお伝えしました。長くなりましたので最後に次項で実際の私の総合内科としての診療に関してお話ししようと思います。

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