本項では中大血管障害のメインの1つ、心筋梗塞についてお話ししていきますね。
(1)心筋梗塞とは
心筋梗塞や狭心症をはじめとする冠動脈疾患は、糖尿病の主な死因の一つになります。心臓は皆さんご存じの通り、全身に血液を送ることで酸素や栄養を運ぶために重要な臓器ですが、もちろん心臓が元気に働くためには心臓そのものにも栄養を送る必要があります。その心臓に栄養を与える血管が『冠動脈』です。
高血圧や糖尿病,脂質異常症等により血管内皮障害をきたし冠動脈の動脈硬化が進むことによって起こる病態が、狭心症/心筋梗塞です。日本人の死因の第2位となっており非常に重要な疾患です。
※なおいわゆる”下の血圧”と呼ばれる拡張期血圧は、『冠動脈血圧』を示します。下の血圧が高いまま経過すると冠動脈の血管内皮障害が起こりやすいため、心筋梗塞を減らすという目的において高血圧は糖尿病と同様に重要な疾患の一つとなります。
(2)心筋梗塞の症状
典型的な症状としては以下のものが挙げられます。
・突然発症の胸の痛み
・痛みの範囲は比較的広範囲(指1本では示せない)
・30分以上持続する
・胸を締め付けられる/押さえられるような痛み
・左肩や顎に響くような痛みがある
・冷汗をかく
これらに該当するような胸の痛みを感じた場合は可及的速やかに救急車を呼んでください。カテーテル治療をいかに早く行えるかにより救命率が変わります。ぜひこの症状は覚えておいてくださいね。
(3)恐ろしい病気:『無痛性心筋梗塞』
先述の通り心筋梗塞では特徴的な胸の痛みがあり、ある程度自己判断のしやすいものではあります。しかし糖尿病患者さんにおいては糖尿病性神経症による痛覚神経の麻痺がみられることから、心筋梗塞になっているにも関わらず痛みを感じないこともあります。これを『無痛性心筋梗塞』と呼びます。
本来心筋梗塞は胸の痛みで早く気付き、救急搬送の上で速やかにカテーテルを行うことで救命につながります。しかし無痛性心筋梗塞の場合、心筋梗塞が起こっても胸の痛みを感じることなく患者さん自身が気付かないまま過ごすことになるため、病院にたどり着く前に心筋梗塞の合併症の不整脈等で既に心停止して見つかるケースも多くみられます。
痛みは重要なサインです。糖尿病性神経症、恐るべしですね。。
(4) 心筋梗塞→カテーテルによる『造影剤腎症』
先述の通り心筋梗塞はそれ自体恐ろしい病気です。しかし速やかにカテーテルをして一命を取り留めたとしても決して油断はできません。実はカテーテル治療を行う際にほぼ必ず用いる造影剤という薬剤は、腎臓に対して大きなダメージを与えうる薬です。元々糖尿病性腎症で腎臓が悪くなってしまっている方にとって、造影剤は最後のとどめの一撃になりえます。実際、我々腎臓内科医は心筋梗塞をきっかけに透析になった症例をよく経験します。
ちなみに救急の現場では、たとえ腎臓を犠牲にしてでも心臓を優先することが多いです。なぜなら腎臓は最悪の場合でも透析療法で生きながらえることはできますが、心臓はそのような装置はなくかけがえのない臓器だからです。
(5) 最後に心筋梗塞による死亡や造影剤腎症を防ぐために
くどいようですが、心筋梗塞による突然死や透析導入を防ぐためにはとにかく糖尿病の早期治療介入が重要です。検診等で糖尿病を指摘された方は必ず早めに医療機関に受診するようにしてくださいね。。
以上で心筋梗塞について終了します。
ここまで何ページにも渡り糖尿病をテーマにお話ししてきましたが、最後に私にとって非常に印象的であった症例を一つ紹介させていただきたいと思います。