最後にこれまでのご説明させて頂いた内容を踏まえた上で、私が経験した糖尿病患者さんの一症例をご紹介させて頂きたいと思います。
【発熱を主訴に救急外来に受診された48歳の男性の症例】
私が金曜日の病院当直医として働いているある日、発熱で救急要請された方が搬送されました。その日は研修医の先生と二人で救急当番であり、色々と指導しながら勤務をしておりました。
(1) 発熱患者さんの診察の仕方
発熱の患者さんが受診された際に重要なことは【熱源】を探すことです。熱源とは文字通り熱がどこから出ているかというものです。他にも救急車で患者さんが来られていたので、研修医の先生に「自分でしっかり診察して一度熱源を探してみてね」と伝えてしばらく任せておりました。その後10分程経過して「熱源は見つかった?」と尋ねたところ、「全身を調べたけれども熱源がどうしても分かりませんでした。。」との返答でした。そこで研修医の先生の診察内容を確認しました。
① 症状の問診
これは非常に重要です。例えば肺炎であれば咳や痰、腎盂腎炎であれば排尿時痛や腰痛、胆嚢炎であれば右上腹部痛、等の特徴的な症状がみられることが多いので大きなヒントになります。しかしこの患者さんは発熱以外の症状はなく、確かに症状では病気の正体を突き止めることはできませんでした。次に大切なのは「身体診察」です。
② 身体診察
こちらも症状同様に非常に重要なものです。研修医の先生のカルテを見ると、口腔内の診察や胸部の聴診,腹部診察,腰背部の診察等かなり細やかにしておりました。これ自体はある程度しっかり診察できていて100点満点の80点程はできていたのですが、しかしこれではまだ足りない部分がありました。
発熱の際の身体診察の方法として『top-to-bottom』という言葉があります。熱源を探るために頭の先から爪の先まで隅々まで診察しましょうという考え方です。これが少し足りない部分があったので私の方で追加で診察することとしました。
(2) top-to-bottomの診察→衝撃の診断
研修医の先生にtop-to-bottomの診察としては少し足りない部分がある、と説明し「特に糖尿病患者さんの場合、足壊疽の可能性もあったりするんだから靴下まで脱がせて診察することが大事ですよ」と伝えました。そして患者さんに「少し靴下失礼しますね。」とお声掛けしながら軽い気持ちで靴下を脱がせました。すると予想だにしていなかった光景がそこにありました。
左足は足の甲から指先まで真っ黒の状態だったのです。そして靴下を脱ぐとともに、これまでに嗅いだことのないようなとてつもない腐敗臭も漂っておりました。そう、熱源の答えは『糖尿病性足壊疽』だったわけです。
発熱時の診察においてtop-to-bottomはやはり基本中の基本です。全身を診察することは非常に大変ですが、それを愚直に行うことで見落としを極力減らす努力が大事になります。
ここまではこの症例の診断までの過程をお話ししました。ここからはさらに混乱を極めますが、長いので次項で説明したいと思います。