前編では発熱で来院した患者さんが実は足壊疽であった、という所までお話ししました。その続きからになります。
(3) 患者さんの問診のやり直し
研修医の先生と交代して私が問診をやり直しました。ここからは私(Dr)と患者さん(Pt)との会話です。
Dr「いつから黒くなっていることに気付きましたか?」
Pt 「1週間前です。」
Dr「怪我をした記憶はありましたか?痛くはなかったのですか?」
Pt 「2週間前に釘が真っ直ぐ足の裏に刺さっていることに気付きました。驚きましたけど痛くなくて放っていました。」
Dr「釘が刺さっても痛みを感じなかったのですね。検診で糖尿病とか指摘されたことはありませんか?」
Pt 「ずっと引っかかっていましたけど治療してなかったです。」
これが典型的な糖尿病性足壊疽の病歴です。本症例の流れは以下の通りです。
①糖尿病性神経症による足の痛覚低下→②足のケガに気付かない→③傷口から細菌が侵入→④糖尿病による免疫力の低下→⑤感染が治まらず筋膜まで進行(壊死性筋膜炎)→⑥敗血症による多臓器不全
釘を踏んで足の裏に突き刺さっても気付かない糖尿病性神経症、本当に恐るべしですね。。
(4) 患者さんの全身状態把握
熱源は足の感染症(壊死性筋膜炎)と分かりました。次にするべきは全身状態の把握、特に他の臓器障害の有無の確認です。糖尿病性足壊疽まで進んでしまう患者さんは糖尿病未治療歴が長いことが多く、ほとんどのケースで既に他の合併症も深刻なレベルであることが多いです。お話ししている間に血液検査の結果が出ておりました。
① 腎機能障害の有無
こちらは既にCr 5mg/dl (8以上で透析,正常は1mg/dl)と腎機能は既に透析直前の深刻な状態でした。
② 感染の状態
足の甲は既に腐敗が進んでおり救肢(足を切断せずに治すこと)は困難と思われました。しかしそれだけではなく、足の赤色変化は既に左膝まで上がってきており腐敗が膝上にまで及んでいる可能性がありました。
(5) 救急での対応→その後
皮膚科の先生にCALL(明け方でしたが)、明け方にも関わらず嫌な顔もせずに速やかに駆けつけてくれました。何とか足を救済できないかとお願いしましたところすぐに救急外来で緊急処置をしてくださったのですが、やはり感染は膝上まで及んでいたので足を救うのは難しいとの判断になりました。ちなみに足の裏の切開処置をしている最中、強烈な腐敗臭を伴う膿が大量に出てきており、その後3日間ほどは救急外来にその匂いが取れないほどの状態でした。その点でも足壊疽は本当に恐ろしいですね。。
その日の昼には【感染進行による敗血症→軽度の意識障害】が見られるようになり、いよいよ足を切断しなければ救命できないところまで事態は進んでしまいました。その旨を心情に配慮しながらまずは少しお話したところご本人は拒否されました。これは当然だと思います。足を切るなんてそんな決断を普通はできるものじゃないに決まっています。しかしここで躊躇っていてはこの患者さんの命を助けられないかもしれない、と判断されたため私はもう一度次はご本人と家族にしっかり病状説明することにしました。
この続きは後編でお話ししますね。