皆さんご存じの通り、先日愛知県におけるワクチン集団接種会場にてアナフィラキシーショックによる死亡という本当に痛ましい出来事が起こりました。心よりご冥福をお祈りいたします。当院としても決して他人事ではなく、日々のワクチン業務や日常臨床においてこれまで以上に気を引き締める必要があると再確認いたしました。
今回のアナフィラキシーショック(アレルギー+上の血圧が70mmHg以下まで下がること)についてですが、これは本当に恐ろしい疾患です。特に重症の場合、秒単位で容体が悪化していくことが多く緊急の対応(アドレナリン筋肉注射)が必要となります。他の心原性ショック(心筋梗塞等が原因)や敗血症性ショック、出血性ショックと比較しても比べ物にならない程急激に容体が悪化します。
そしてこのアナフィラキシーショックですが、実際は治療経験がある医師の方がむしろ少ないです。その理由として例えば食物アレルギーによるアナフィラキシーショックの児童の場合、初回は仕方ないですが2回目以降は迅速に対応できるよう『エピペン』という自己注射を持っていることが多いです。なので病院にたどり着いたときには既に自己注射をしてショック状態を抜け出していることが多いわけです。私は勤務医時代はほぼ毎日のように救急に携わっていましたが、それでも恐らくアナフィラキシーは30例ほど,その中でアナフィラキシーショックは2例の経験数ですし決して多い疾患ではないです。普段救急に深く携わっていない医師ではアナフィラキシーに一度も出会ったことがない方も多いと思われます。
今回の本題はここからです。皆さんに質問です。内科外来診療において最も重要な能力とはいったい何でしょうか?
答え:『短時間での問題解決能力』
高血圧で定期的に当院に通院されている方にとっては、医院=いつもの薬をもらいに行くところ、という単純作業しかしていないイメージかもしれません。しかし私の1日の外来においては急な胸痛や腹痛や頭痛等で来られる方も多く、中には救急対応を必要とする非常に危険な状態の方が混ざっていることもよくあります。実際先週の火曜日は急性胆嚢炎と急性虫垂炎の方が同じ日に当院に受診されており、お二人とも救急に紹介し事なきを得ましたが、そこで判断を誤れば人命に関わる疾患を見逃すことになりかねませんでした。実はそのような緊急性の高い方もクリニックにはたくさん受診されます。
その際に内科外来で最も重視される力はやはり『救急対応が必要か否かを短時間で見極める能力』となります。通常診療は患者さんお一人当たり平均約5分、長くても10分程度しか時間を費やすことができず、この非常に短時間で命に関わる救急疾患を見逃さずに最適な答えを導き出すことが求められるからです。ではこのような能力はどこで磨かれるのでしょうか?
この答えは間違いなく『救急外来』です。
長くなりましたのでその理由については次項でもっと深く説明していきたいと思います。