①においては短時間での問題解決能力が内科外来では最も重要であり、それを最も鍛えることができるのは救急外来だというお話をしました。おそらく多くの方は『何を当たり前のことを言っているのだろうか?』と感じると思います。当然のことではありますが、私なりにもう少し掘り下げていこうと思います。
(1)救急外来で重要なこと=『一瞬での原因究明』(×対症療法)
例えば救急外来にショック状態 (上の血圧が70未満)の方が運ばれたとします。その場合に瞬時に行うべきこととしてまず挙げるならば以下です。
①静脈ルートの確保(点滴を入れるため) ②点滴の急速投与(ただし心筋梗塞は除く) ③下肢挙上(心臓に血流を多く流すため) ④呼吸/意識状態の確認 etc
このような救急における処置を世の中では大変なもののように捉えられています。しかしこのような”対症療法”はただ単に決まった手順の単純作業であり、救急に慣れた医師ならば何も悩むことなく思考停止状態で瞬時に行うことができます。逆に救急にあまり携わっていない医師はこれだけであたふたしてしまいます。そしてこの作業だけで脳の容量を大きく使ってしまうため『もっと大事なこと』が見えなくなります。ではもっと大事なこととは何か、それはショック状態に至った『原因究明』です。
このような例において経験豊富な救急医師の頭の中は大体こんな感じです。
(とりあえずショック状態だから①-④の手順はとりあえずやって…問題はこの患者さんはなんでショック状態になったんだろうか?アナフィラキシーか敗血症か心筋梗塞か。これをしっかり突き止めないといけないな。)
この『原因究明』をしっかり行わないともし①-④の対症療法を行って血圧が上がったとしても、すぐにショック状態に戻り最終的には命を落とします。なので救急において大事なことは心肺蘇生や点滴確保や人工呼吸とかそんなその場凌ぎなんかではなく、『原因が何なのか瞬時に見極める能力』ということになります。
(2)難易度:救急外来>>入院診療
救急外来と入院診療はどちらも患者さんの診断治療を行い最終的に元気になって帰って頂く、という点では目的は共通しております。ではこの両者の決定的な違いは皆さん何だと思われますか?答えは『時間制限』です。
救急は下手をすると1分1秒で状態が悪化する可能性があります。そのため瞬間である程度正しい診断を付ける能力が求められます。では入院診療はどうでしょうか?例えば不明熱で入院された方の場合、2週間の予定入院であれば、『2週間かけて答えを出すことができればいい』んです。つまり14日間×24時間=336時間もかけて一つの答えを導き出せばいいわけですね。
似たような内容で例えるならば受験です。無限の時間で問題を解いてください、という内容ならば頑張って色々勉強したり人に教えてもらったりすれば難しい問題でも最終的には答えを導くことができる可能性があります。しかしこれを60分等の時間制限で解いてください、と言われると一気に難易度が上がります。結果追い詰められた時の真の実力が問われるわけです。
そのため時間との勝負に追い詰められた時の医師の真の実力を高めるためには常にtime trialの世界に飛び込む必要があります。そしてそれこそが救急です。恐れず怖がらずに毎日救急診療に従事することで医師としての急変対応力を研ぎ澄ますことができます。しかし救急を嫌い重症患者の重責を背負うことを上手く回避し続け、安定した普通助かるよねという患者さんの入院ばかり診たがる医師も実は結構多いです。このような医師は患者さんの急変時に体が硬直してしまい素早く動けないことが多いです。
私のポリシーとしては『目の前で患者さんが急変した時に助けられない医師だけにはなりたくない』と常々思っていました。そのため救急の武者修行として常勤勤務だけではなく土日はほぼ毎週救急病院に飛び込んでいました。これまで30-40病院で非常救急医師として『医師は自分しかいない環境の救急外来』で孤独に救急診療を励んだ結果、一人でも最善の医療を尽くせる確実な自信を身に着けたため比較的若いながらも開業に至りました。私の勤務歴は別のテーマの時に紹介いたします。
このお話の続きは次項に移りますね。