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内科医における救急診療の重要性③

2022.11.28

①-②おいては医師として成熟するための救急外来での鍛錬の重要性を語りました。最後に、『クリニックにおける通常診療』がどのような位置づけになるのかをお伝えしたいと思います。

 

(3)救急診療は実は非常に簡単

巷では救急が最も難しくカッコいいイメージが沁みついているのでにわかに信じがたい内容でしょう。ただほぼ毎日のように救急外来で診療していた私としては救急は簡単だと感じております。

例えば意識障害の方が来られたとします。この場合まず救急でするべきことは循環/呼吸の管理です。必要があれば人工呼吸器も検討します。しかしこんなものは慣れた医師にとっては単純な内容です。重要なのは②でもお伝えしたように『意識障害に至った原因を突き止める』ことでしたね。でも実はこれも非常にシンプルです。AIUEOTIPSの頭文字で丸暗記です。

  • A:Alcohol(アルコール)
  • I:Insulin(低血糖)
  • U:Uremia(尿毒症)
  • E:Electrolytes(電解質)/Endocrine(内分泌)/Encephalopathy(脳症)
  • O:Overdose(中毒)/O2(低酸素)
  • T:Trauma(頭部外傷)/Temperature(低・高体温)
  • I:Infection(髄膜炎・敗血症)
  • P:Psychiatric(精神疾患)/Porphyria(ポルフィリア)
  • S:Stroke(脳卒中)/Seizure/Shock

これらの疾患を漏れなく想定し、病歴/身体所見/検査で1つずつ除外して最終的に原因を特定することを目標とします。特に脳卒中が危ない上に多い疾患なので注意が必要です。原因特定も一見難しいように見えるでしょうが、実際は100回くらい意識障害の救急を診れば体に沁みつくので最終的には単純作業に至ります。結局は瞬間判断能力や医師としての度胸は毎日救急診療を繰り返すことで身に着けることができるものであり、絶対に医師として救急から逃げるべきではありません。

 

(4)本当の難易度:通常外来>>救急外来>入院診療

本当かよ?と思われるのではないでしょうか。通常外来なんて血圧とコレステロールと糖尿病の薬とか出しているだけだろ?と思う方もいると思います。しかし実際は通常外来にも腹痛や胸痛の患者さんは来ます。そしてその中にどう考えても救急で診察した方がよい方も混ざるわけですね。他にもたくさんの患者さんの診療が多く待ち構えている中、緊急疾患か否かを5分もない時間で判断して適切に対応する必要があります。

また別の視点からも考えてみます。私が救急に従事している時、常に『今日も当然のように危ない状態の患者さんが来るはず』という一定の緊張感で担当しておりました。しかし正直通常外来は普通はそこまでの緊張感を持って挑む場所ではありません。なのでどうしても初動が遅れがちになりやすい傾向があります。特に救急経験の乏しい場合、緊急性が高いか否かを瞬時に判断することが難しいため大丈夫だと思い来院順に患者さんを診察していると大幅に対応が遅れてしまった、ということもしばしばです。

最後にこれが非常に重要ですが、救急外来と違って通常外来は『武器が少ない』状態で戦う必要があります。たとえば血液検査も即時に出ないですし、当然CTやMRIを撮れないことも多いです。こんな中で病歴/レントゲン/心電図/身体所見のみで100%正しい判断を求められるわけですから至難の業ですね。

これらの理由から通常外来はさらに難易度が高く、知識/経験共に豊富な医師が担当するべきポジションになります。私としては救急より何倍も難しいと感じています。総合病院で入院/救急外来は若手,通常外来はベテランが担当していることが多いのもその証左ですね。

通常診療の質を高めるのにやはり重要なのは『救急診療の経験値』です。これをもって応用の日常外来に挑むことが患者様の安全の担保につながります。逆にこのバックボーンが全くないと、時々急を要する患者さんが受診された際に全く動けない医師になってしまいます。今回の集団接種会場の悲しい出来事の背景にはこのような内容があるのではないかと感じたのが率直な私の感想です。

 

 

以上から私は内科医は若い頃から救急から背中を真正面から戦うべきだと考えております。救急診療を繰り返した医師と救急から逃げ続けた医師ではとてつもない臨床能力の差が生まれます。

患者さんがかかりつけ医を選ぶ際には一定の救急経験をしっかり持つ医師が良い、という結論の上で今回の内容を締めくくろうと思います。長編でしたがご覧頂き誠にありがとうございました。

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