続きをお話ししていきます。
(2)常勤+非常勤救急病院での武者修行
(ⅰ) 常勤病院について
神戸労災病院の総合内科でたくさんの経験をした後、総合内科の透析経験を活かそうと思い、専門として腎臓内科に進みました。そのため腎臓内科として大阪第二警察病院で勤務しましたが、神戸労災病院と異なり非常にゆとりのある勤務形態であったためじっくり勉強する時間をかなり得ることができました。しかし徐々に物足りない気持ちが強くなってきました。というのも比較的救急に積極的ではない病院でした。他の医師が救急車を断っているケースも多く、私が神戸労災病院時代のノリで二つ返事で救急車を全部受け入れていたら気付けば上半期救急受け入れ台数1位として表彰されていました。
しかしそれでも救急の件数が少なく、このままでは自分の力が錆びつくのではないか、と危惧した私は土日の非常勤救急のアルバイトに行くことに決めました。毎週のように土日は48時間非常勤救急に励み、そのまま月曜日から仕事、という日々を過ごしていました。
(ⅱ) 非常勤救急について
土日や平日深夜の非常勤救急は特に固定の病院を決めていませんでした。とりあえず様々な病院を経験してみたい、という気持ちで救急当直医の募集があれば軽い気持ちで飛び込んでいました。もちろん複数回同じ病院で勤務したこともありましたが、5年間続けたところ気付けば30‐40病院で勤務していました。主に奈良県/和歌山県/滋賀県/兵庫県/大阪府/京都府の病院で働きましたが、病院によって本当に全然雰囲気が異なりました。非常に良い経験だったと思っています。
例えば大阪府淀川区のN病院ですが、夜間当直帯の患者さんの受け入れは看護師さんが行っています。なので途中までは何の前触れもなく私のPHSが鳴ったと思えば、「患者さんが来られました~」という看護師さんからの一言招集からスタートでした。心の準備もなく呼ばれるがままに救急に向かうと、既にアルコール中毒や覚せい剤使用の患者さんが救急で暴れていたり、明らかに心筋梗塞の方がいたり、なんと手錠がかかっている方が警察官と共に受診、ということもありました。何度も危ないシーンがあったのでできれば事前連絡してほしいなーというシーンがありましたが理由を聞くとある意味納得でした。理由の一つは病院の方針で全部受けないといけないから電話に忙殺されて医師に伝える時間がない、とのことでした。そしてもう一つですが『非常勤医師に電話を任せると勝手に断っているケースが多い』とのことでした。断らない救急になれていない医師にとっては自分のキャパシティを少しでも超えそうな救急症例は断りたい、という気持ちが湧くのも無理はないと思いますが、その恐れこそが医師としての成長を妨げるものです。
そして非常勤救急の何が良いかというと、『自分以外に医師がいない状況に追い込まれる』ことです。これは同僚の医師には変人扱いされていましたが、私にとっては重要なことでした。大規模な総合病院の救急の場合、夜の当直医が3名以上いることが多いだけではなく、循環器内科,消化器内科,心臓外科,産婦人科等がそれぞれスタンバイしています。そうなると医師は合計7人くらいいて救命に当たっているわけです。患者さんにとっての医療体制としては素晴らしいのですが、『医師の個の成長が促されない環境』だと私は思っています。医師の人数で安全を担保されていると甘えやすく、誰かにカバーしてもらうことを前提に行動するようになります。私は医師が自分一人しかいない状況でも助けられる力を身に着けたい、と思っていたので正直総合病院での救急は生ぬるいと感じていました。その点非常勤救急は医師は自分一人しかいない状況ですべてを捌かないといけないため私の一番望んでいた環境でした。
この武者修行のような救急を約5年間続けた結果、体力的には休みもなく非常に辛い面もありましたが最終的には経歴以上の経験と力と自信を得ることができたので非常に充実した日々でした。この5年間で20-30年の病院勤務で得る医師の経験値をはるかに超えるほどの修羅場をくぐってきたと思います。
…またまた長くなりましたので続きは次項でお話しします。