前項の続きです。引き続き労働がもたらすポジティブな側面についてです。
7⃣ 人間関係の確立、社会的存在意義としての労働
現在の社会、特に若い世代では職場の人間関係を苦痛と感じている方が多いように思われます。しかしこの核家族社会において仮に所帯を持たず仕事にも就かないとなると、なかなか人間関係の確立が困難になることが多いのではないのでしょうか。
毎日沢山の方と接するお仕事をさせて頂いている私の視点から、人にとって最もつらいことは『社会的/家庭的孤立』なのではないかと感じております。これはまだ心身ともに健康な若い頃には実感できないでしょう。しかし中年期以降の顕著な体力低下や身体的疾患をわずらってから、初めて人は孤独が非常に辛くなるものです。
これを克服するためにはやはり多様な人間関係の確立が必要になります。その一つの役割を果たしてくれるのが仕事ではないでしょうか。職場で人間関係を確立し、働くことで自身の社会的疎外感を感じずに存在意義を認識しやすくなるのではないかと考えております。現に私は昔から自己肯定感が非常に薄いのですが、医師という仕事に従事させて頂いているおかげで何とか自身の存在意義への認識を保つことができているのが現状です。そして同じような方は世間に沢山いらっしゃるのではないかと思います。
もちろん仕事によってむしろ自分の存在価値への実感が薄まってしまっている方も多くいらっしゃるのは事実でしょうが、それを以てして昨今の社会の『労働=苦痛』という論調に持っていくのは多少乱暴ではないかと感じる日々です。