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総合内科的知識が問われた経験症例 Part2 『徐脈』 前編

2022.08.20

前回は眼瞼下垂(まぶたが下がる)の症例を紹介しました。

今回はもっと複雑であった経験症例をお話しして、かかりつけ医が総合内科力を持つことの重要性をより深くご理解いただければと思います。

 

Part2【大腿骨骨折で入院中に脈が遅いためペースメーカーが検討された64歳女性の例】

こちらは私が5年ほど前に非常勤内科救急医として休日に勤務している病院での症例です。

夜間に病棟の看護師さんから午前3時頃に私のPHSにcallがありました。内容は以下のものでした。

 

看護師さん「患者様は4階病棟の入院中の64歳女性Aさんです。転倒による大腿骨骨折のため整形外科入院中です。元々入院当日に手術の予定でしたがレート(脈拍数)が40回/分程度で非常に遅い状態でした。麻酔科から手術は危険と判断されて延期となっています。循環器内科に紹介となり明日ペースメーカーの手術予定となっている方です。現在レートが34回/分でこのまま見ていて大丈夫なのかどうかと思ったのでご連絡しました。」

 

これはとても大変な状態でした。また症例には3人の医師が携わっておりかなり複雑な状態になっております。なお当直医にとって一番つらいのはやはり『圧倒的情報不足』です。そのためまず必要なことは正確な現状把握です。

 

(1) 脈が遅い(=徐脈)のは危険なのか?

脈拍数34回/分、医学的に言うと高度徐脈の状態ですが、これは意識消失や心停止に至る可能性もあり、看護師さんが夜中に医師を起こしてでもcallするのは正しい判断です。最悪の場合、一時ペーシングといって心臓が止まらないようにその場凌ぎの処置が必要な場合もあります。

 

(2) 現在の各科医師の治療方針は?

主治医は整形外科医師。

① 整形外科→大腿骨骨折は手術予定、しかし麻酔科がstopしているため現在は循環器内科に委任

② 麻酔科→徐脈のため現時点の手術は反対。循環器内科に委任中

 循環器内科→手術を安全に行うために、徐脈に対してペースメーカー手術予定。

 

3人の専門医が診ているから安心、と思われがちですが、実は循環器内科以外全く機能していない状態です。そして循環器内科医は主治医ではない以上どうしても責任感は低くなってしまいます。

 

患者さん方にとっては『いやいや主治医じゃなくてもちゃんと診てくれよ…』というのが当然だとは思いますがそこは医師も人間です。複数の専門医がそれぞれ対応するのは世間では良いことのように捉えられやすいですが、実はこのような時に責任の分散によるミスが発生しやすいため非常に注意が必要です。

 

↓↓長くなりましたので、続きは後編で説明させていただきます。

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